化学物質過敏症の苦しみを、大田区に届けた日
2025年5月、自宅前の老人ホームから排出される浴室の強い香料臭によって、私は完全に体調を崩してしまいました。呼吸が困難になり、部屋にいることもできず、避難先も確保できないという、極めて深刻な状況に追い込まれました。
そんな中、わずかな望みをかけて、大田区の「区政へのご意見・ご要望」窓口にメールを送りました。以下がその際に送信した文書(一部改変済)です。
※大田区の「区政へのご意見・ご要望」窓口
https://www.city.ota.tokyo.jp/cgi-bin/formmail_r1/formmail.cgi?d=opinion
件名:区内施設からの化学物質排出に関する緊急要望
宛先:大田区長 鈴木あきまさ 様
日頃より、大田区のまちづくりと区民の福祉向上のためのご尽力、誠にありがとうございます。
私は現在、化学物質過敏症(CS)を患っており、日常生活そのものが困難な状態です。呼吸が苦しく、自宅にとどまることすらできず、避難先も見つからない状況が続いています。
先日、大田区環境政策課のご担当者と相談させていただきましたが、「化学物質過敏症は科学的根拠が不確かであり、個人の特性によるものとされているため、当課では対応が難しい」とのご回答をいただきました。現在、大田区議会議員の方がご尽力くださり、介護保険課を通じて施設側に要望が伝えられる見込みです。
もちろん、現行の体制には限界があることは理解しております。しかし、「対応できない」で終わらせるのではなく、今後の区の政策として、化学物質過敏症に配慮した施策の検討と導入をご検討いただけないでしょうか。
声を上げることさえ困難な当事者が多くいます。どうか、その実情に耳を傾けていただきますよう、心よりお願い申し上げます。
大田区から届いた、正式な回答
区政への要望として送ったメールに対し、大田区の各担当課から回答が届きました。
その内容は以下の通りです。
〇〇 様
メールを拝見いたしました。
ご意見・ご要望をいただきました「区内施設からの化学物質排出に関する緊急要望」につきまして、下記のとおり所管課から回答いたします。
何とぞご理解を賜りますようお願い申し上げます。大田区企画経営部広聴広報課広聴担当
ご意見・ご要望を拝見しました。
化学物質過敏症については未解明な部分も多く、大田区としてできることに限りはありますが、大田区では、柔軟剤等の香りが苦手な方や過敏な方など様々な体質の方がいらっしゃることを踏まえ、香りの強さの感じ方には個人差があり、自分にとって快適な香りでも困っている人もいることをお知らせし、また、香り付き製品を使用する際は使用量の目安等を参考に周囲の方にも配慮いただくよう、ポスターを掲示する等して、区民の方へ啓発を行ってきました。
いただいたご意見・ご要望も参考にし、今後も製品を使用する際のマナー啓発等を行ってまいります大田区健康政策部生活衛生課長
【担当】生活衛生課 環境衛生地域未来創造部地域力推進課長
【担当】地域力推進課消費者生活センター
「たった一通」かもしれないけれど──私にとっての意味
正直なところ、大田区からの回答を受け取ったとき、
どこか「限界はありますが、啓発は続けます」という型通りの返答のように感じてしまったのも事実です。
もちろん、行政としてすぐに踏み込んだ対応を取るのは難しいこと、
制度の枠組みがあることも理解しています。
けれど、こちらは「今まさに生きる場所を失っている」という、切実な訴えでした。
体調が悪化し、家にいることもできず、避難先も見つからず、
日々命を削るような感覚で過ごしている中での声でした。
それでも、私の投げかけた言葉に対して、「担当課からの正式な返信があった」という事実は、
やはり小さくないことだったとも思います。
誰にも気づかれないまま、苦しんでいる人がたくさんいます。
声を上げることさえ、体調や環境的に難しい──そんな当事者の存在を、
せめて「見えるもの」として残しておきたい。
そうした想いも込めて、私はこの文書を送りました。
「ただのクレーム」と受け取られてしまうのではなく、
「困っている誰かの現実の一つ」として、
ほんの少しでも心に残ってくれたなら、それで意味があったのではないか──
今は、そう思うようにしています。
このやりとりを公開することにも迷いがありましたが、
同じように苦しんでいる方が「一人じゃない」と感じてもらえるきっかけになればと願っています。
そして、行政の皆さんの中で、住民の声を直接受け止める立場にある方々に、
こうした声がきちんと届いていると、私は信じたいのです。